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法律コラム
誹謗中傷とは?
該当する犯罪と対応策まとめ
相次ぐ芸能人の自殺や、ネットの炎上騒ぎから注目されるようになった「誹謗中傷」という言葉。
なんとなく「人を傷つけること」と認識している人は多いと思いますが、具体的にどんな行為を指すのかご存知ですか?
今回は、どんな言葉や行動が誹謗中傷になるのか、どこからが犯罪になるのかのボーダーラインを解説。
また、誹謗中傷被害を受けた場合の対策方法についても、お伝えしていきます。
誹謗中傷とは
誹謗中傷とは、「根拠のない悪口を言いふらして、他人を傷つけること」です。(goo辞書)
近年はネット上での誹謗中傷被害が広がっていて、社会的な問題となっています。
誹謗中傷の定義
誹謗中傷は、「誹謗」と「中傷」の2つの言葉からなっています。
それぞれの言葉の意味は、以下の通り。
誹謗:他人を悪く言うこと。そしること。
中傷:根拠のない事を言いふらして、他人の名誉を傷つけること。
明確な定義はありませんが、人の悪口や悪い評判を本人に言ったり、言いふらしたりして、その人の心や名誉を傷つけることを誹謗中傷といいます。
もちろん、物理的に「言う」だけではなく、ネット上の書き込みやメッセージで人を傷つけることも誹謗中傷です。
ネットで誹謗中傷が多い理由
ネットでの誹謗中傷が多いのは、以下の理由が複雑に絡み合っているためと考えられます。
・相手が匿名で見えづらい
・自分が匿名なので、現実世界では言えないことも書き込みやすい
・多くの人に知られたいという自己顕示欲
・現実世界では見つかりにくい小さな不正も、大きな炎上になりがち
ネット上での人格は、現実の自分とは切り離して考えている人も非常に多いです。
相手や自分の顔が見えないことや、実際に声に出して悪口を言うわけではないことから、直接顔を合わせた時には言えないような言葉まで書き込みやすくなってしまいます。
また、炎上に対する「叩き」は、批判する側に正義があり、味方もたくさんいるという自信から、必要以上に攻撃的な言葉を使う人が増えがちです。
誹謗中傷の実例
誹謗中傷から裁判に発展した実例や、誹謗中傷が原因で悲しい結果になってしまった事例には、以下のようなものがあります。
・女子プロレスラー・木村花さん
テレビ番組「テラスハウス」に入居者として出演していたプロレスラーの木村花さんは、2020年5月28日に自ら命を絶ってしまいました。
その直前に、自分に寄せられた誹謗中傷の書き込みに「いいね」をしていたことから、原因はSNSでの誹謗中傷だと言われています。
木村花さんのSNSには「おまえがいなくなればみんな幸せ」「早く消えてくれ」といった悪質なコメントが、1日数百件以上も寄せられていました。
木村花さんのご遺族は、悪質な書き込みに対して情報開示請求を行い、投稿者に対し損害賠償を求めて提訴。その結果、東京地方裁判所は約129万円の支払いを命じる判決を下しました。。
・女優・春名風花さん
9才から女優として活躍していた春名風花さんは、10年以上に渡ってネット上の誹謗中傷に晒され続けてきました。
2011年に、Twitterでの発言が注目されたことで、フォロワー数が急増。
同時に悪質なコメントも増え、具体的な殺害方法なども示した殺害予告も書き込まれたことから、警察が捜査をする事態になりました。
その後も、春名風花さんは誹謗中傷被害への法的対応を進め、2018年には書き込みをした人物を相手取って慰謝料など約265万円を求めて訴訟。
2020年7月16日に、示談が成立したことを自身のYoutubeチャンネルで報告しています。
誹謗中傷が当てはまる法律
現在、誹謗中傷自体を取り締まる法律はありません。
しかし、誹謗中傷になるような言葉や行動は、以下の法律に該当する可能性があります。
名誉毀損罪
名誉毀損罪(刑法230条)は、「公然と、事実を摘示して人の名誉を毀損すること」でかつ「違法性阻却事由」がないことです。
まず「公然と」とは、不特定、または多数の人が認識できる状態のことをいい、例えばネット上に書き込んだり、噂が広まるよう言いふらす、貼り紙をするといったことを指します。
「事実を摘示」は具体的な事実のことで、その事柄自体が嘘か本当かは関係ありません。
「人の名誉を毀損」とは、一般に人として社会から受ける評価を傷つけること。
その人の氏名は明らかにされていなくても、イニシャル・伏せ字・匿名表記などで具体的に誰なのか容易に特定できる状態である必要があります。
最後に、「違法性阻却事由」とは、その事実を公にすることで、公益があれば罪に問われないこともあるということです。
例えば、政治家や大企業の経営者のような社会的影響力の高い人の不祥事を告発した場合などは、名誉毀損にならない場合もあります。
以上の要件を満たした名誉毀損罪と認められると、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が課せられます。
ネットでの名誉毀損について詳しくは「名誉毀損の時効は何年?」をご覧ください。
侮辱罪
侮辱罪(刑法231条)は「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」と定められています。
構成要件は「公然と」「人を侮辱」「事実を摘示しない」の3点です。
「公然と」は先述の名誉毀損罪と同じで、「人を侮辱」は、法的には「侮辱的価値判断を表示」することを言うとされています。
かなり解釈の幅が広いですが、「人を見下すような発言全般」と考えて問題ありません。
「事実を摘示しない」とは、「バカ」など証拠を示せないような漠然とした悪口のことです。
侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」と定められています。
拘留とは「1日以上30日未満の間、刑事施設で身体を拘束される罰」。科料とは「1,000円以上1万円未満の金銭を徴収される罰」のことです。
信用毀損罪・業務妨害罪
信用毀損罪・業務妨害罪(ともに刑法233条〜234条)は、主に企業や事業に対する誹謗中傷が該当します。
信用毀損罪とは、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損」すること。
簡単に言うと、嘘の情報で他人の信用(主に経済的な信用)を傷つけることです。
業務妨害罪は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害すること(偽計業務妨害罪)。または威力を用いて人の業務を妨害すること(威力業務妨害罪)」。恐喝・暴力・嘘の情報などで被害者の業務を邪魔した場合に該当します。
法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
恐喝罪
恐喝罪(刑法249条)は、「人を恐喝して財物を交付させる」こと。
相手を畏怖させるような脅迫や暴行を加えて、物やお金を脅し取った場合の犯罪です。
違反した場合、10年以下の懲役が科せられます。
脅迫罪
脅迫罪(刑法222条)は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」すること。
本人だけではなく、本人の親族の安全を脅かすような発言も同様の扱いとなります。
違反した場合、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
誹謗中傷された時の対応策
最後に、誹謗中傷の被害を受けた場合、どのように対応していくべきかお伝えします。
誰に相談するべきか
誹謗中傷被害を受けた場合は、一人で悩まずに誰かに相談しましょう。
相談先は、法務省(SNS人権相談)、警察、弁護士、ネットへの書き込み削除や逆SEOを請け負う業者などがあります。
ベストな相談先は受けている被害の状況などにもよりますが、一般的には弁護士がおすすめです。
弁護士は、サイト運営への削除要請・加害者との交渉・裁判手続きなど総合的な対応が可能で、被害者にとって一番良い解決方法をサポートすることができます。
匿名での誹謗中傷でも特定は可能?
匿名の相手から誹謗中傷被害を受けた場合でも、相手を特定することは可能です。
投稿者の特定は、「サイト運営へのIPアドレス開示請求→プロバイダへの投稿者の情報開示請求」という手続きで行います。
ただし、IPアドレスやアクセスログの保存期間は3〜6ヶ月と短いため、誹謗中傷被害を受けたらスピーディーに対応を始める必要があります。
どちらも裁判所を通す必要があり、法律の知識が必要な手続きのため、弁護士に依頼するのがおすすめです。
相手の特定・慰謝料請求
誹謗中傷をした相手を特定できたら、精神的苦痛の慰謝料や、実際に受けた被害の損害賠償を請求できます。
請求の方法には「示談(任意での支払い)→調停(話し合い)→裁判」という3段階の各方法があり、どの方法で相手が応じるかによって必要な期間や費用が異なります。
慰謝料請求にかかる弁護士費用は、以下のようなイメージです。
裁判外での請求:着手金10万円、成功報酬 慰謝料の16%
裁判での請求:着手金20~30万円、成功報酬 慰謝料の16%
まとめ
ネットでの誹謗中傷は、様々な犯罪に該当する可能性があります。
匿名で誹謗中傷された場合でも、相手を特定して罪に問うことや、慰謝料・損害賠償請求を行うことは可能です。
ただし、スピーディーな対応と複雑な手続きが必要になるため、法律の専門家である弁護士に相談するのがおすすめ。
ネットでの誹謗中傷被害に悩んでいる方は、ぜひ弁護士への相談を検討してみてください。